香道では、沈水香という天然の香木を用います。
きわめて貴重なその天然香木を尊敬する気持ちが、香道入門の基本です。
一般的に香木の代表が沈水香(じんすいこう)と呼ばれるもので、その最上品を伽羅(きゃら)といいます。香木といっても、木そのものが芳香を放つのではありません。自然に枯死したり、バクテリアによって朽ちたある種の木の樹脂が、土中に埋もれている間に木質に沈着し、それを熱すると香りを発するのです。そのため、香木の採集はほとんど偶然にたよるしか他に方法はありません。しかも、樹齢数十年を経た老木でないと、沈着が発生しないといわれますから、香木がいかに貴重なものかご理解いただけるでしょう。
香道の精神は、この稀少な天然香木を敬い、大切に扱う気持ちが原点です。香を炷くにはさまざまな形式がありますが、その基本は、何といっても香木に対する尊敬の念にほかなりません。それが上達を早め、香道の真の理解につながります。香を炷くという、一見なんでもないように見える行為にも、実は深い思慮を精神が秘められているのです。
十種香箱
炷香道具を中心に、「組香」と呼ばれる香を聞き当てる競技に必要な道具が、すべてこの二段重ねの箱の中に収容されています。江戸時代中期頃より、工芸的価値の高い香道具が数多く製作されました。
沈水香三種
香道で鑑賞する香料は、南アジア産の天然香木です。非常に比重が重いことから「沈水香」と呼ばれます。香道ではさらにこの沈水香木を、独自の基準に従って「伽羅」を始めとする六種に分類します。
香りを「かぐ」ことを、香道の世界では「聞く」といいます。
かぐでも匂うでもなく「聞く」―。
この言葉に香道の魅力のすべてが秘められています。
香りはすべて「六国五味」(りっこくごみ)で分類されます。六国とは香木の種類のことで、伽羅(きゃら)・羅国(らこく)・真南賀(まなか)・真南蛮(まなばん)・寸門多羅(すもんたら)・佐曽羅(さそら)の六つ。五味とは、匂いの特色を五つの味覚で表現したもので、甘(あまい)・苦(にがい)・辛(からい)・酸(すい)・鹹(しおからい)に分類されます。この六国五味を習得するには、相当の経験が要求されます。しかし、できる限り聞香(もんこう)の回数を増やすことによって、少しでも上達するよう努力します。古くより「香の十徳」といわれ、香が及ぼす肉体的・精神的な効用が伝えられています。
- (一)感覚を研ぎ澄ます
- (二)心身を清浄にする
- (三)汚れを取り除く
- (四)眠気を覚ます
- (五)孤独感を癒す
- (六)多忙時でも心を和ます
- (七)沢山あっても邪魔にならない
- (八)少量でも芳香を放つ
- (九)何百年をへても朽ちはてない
- (十)常用しても害がない
香道は精神世界の芸術です。ひたむきに聞香に励めば、心の奥底に深いやさしさをたたえたあなた自身に、やがて逢えるかもしれません。
香十徳
沈水香木を十の徳目で賛嘆するものである。香道に志を持つ者すべての指標である。
志野折
香包を入れる包紙で総包ともいう。鳥の子紙七枚重ね。折形が難しいので宗匠にお願いして折ってもらって用いたというところから「志野殿折」と呼ばれた。